[第三十話]治療

クデナムという神が出現したとき、存在するものは彼のほかに何もなかった。クデナムは宇宙を創り、その中に恒星や惑星やその他の様々な天体を創った。彼は惑星の一つを選び、様々な種類の生物を創ってそこに棲まわせた。彼が創った生物の種類の一つは、知能…

[第二十九話]再定義

ケゴマテという惑星に住む人間の大半は、レキテゴス教という宗教を信仰していた。レキテゴス教は、分極暦紀元前四世紀にレキテゴスという預言者によって創始された宗教である。レキテゴス教の聖典は『ゼヌガ・トデルマ』と呼ばれる。これはレキテゴスの死後…

[第二十八話]膨張

クナタマ大学の学術調査隊は、ミルボキデルの第三十四洞窟において、クベスナ王国のラシム王朝時代のものと推定される木製の箱を発見した。その箱には、ラシム王朝時代に使われていた文字で、「この箱は決して開いてはならぬ」と書かれた封印が貼られていた…

[第二十七話]荷物

ガナゾキアという惑星に棲む人間の九割は、クネモル教と呼ばれる宗教を信仰していた。トグリヌスは、ネケボシアという国に暮らす、クネモル教の敬虔な信者の子供として生まれた。彼は幼い頃からクネモル教の聖職者になることを志し、そのための勉強に余念が…

[第二十六話]弁明

トルベリサという国のとある農村に、ガリモスという農夫が住んでいた。シギマ暦二四二四年の農閑期のとある夜、彼は神と名乗る者の声を聞いた。神はガリモスに次のように告げた。「人間たちはさまざまな宗教を持っている。それらのどの宗教についても、その…

[第二十五話]門

キナスモ大学は、クダキミアという国の中で最高の頭脳を持つ学者たちを擁する大学として知られていた。タツリマクは、キナスモ大学理学部神学科の教授に就任した翌年、「理論神学と実験神学」と題する論文を学会誌に投稿した。その論文の中で彼は、「これま…

[第二十四話]紙

ルリナニアという惑星では、トリブリスという植物が紙の原料として使われていた。ルリナニアの一角にコモナマという国があった。あるときコモナマは、隣国との戦争で勝利を収め、その国の領土の一部だったメキトルという地域を併合した。その地域の大部分は…

[第二十三話]遺骸

ソテリマという惑星に棲む人間たちは、神はかつては存在していたが、すでに死んでしまっていると信じていた。『無極書』という古い書物には、ソテリマの人間たちが一柱の神とともに暮らしていた時代の出来事が記されている。人々はその神をコルゴスと呼んだ…

[第二十二話]古狸

ケモモクという古狸は、六千四百七十五歳のとき、人間に幻覚を見せる術を会得した。ケモモクは会得した術を使って人間に悪戯をしてみようと考えた。そこで彼は、狸たちが棲む森から出て、トベリケラという人間の国へ行き、その国の都の城門をくぐった。そし…

[第二十一話]検定試験

無限に広がる虚空の中に、天国と呼ばれる平面が浮かんでいた。その平面の上には、シクムスという神が住んでいた。シクムスは退屈していた。そこで彼は、天使たちから構成される社会を天国に構築しようと考えた。まず最初にシクムスは、天国よりも百万由旬だ…

[第二十話]襲名

自分は存在しているとテモタが気づいたとき、存在しているものは彼女のほかに何もなかった。テモタは自分とは異なるさまざまなものを造ろうと考えた。そこで彼女は、月曜日に宇宙を造り、火曜日に無数の恒星を造り、水曜日に無数の惑星を造り、木曜日に無数…

[第十九話]戦死者

シゲコニアという惑星に生まれた人間の霊魂は、肉体が消滅したのちも存在し続けた。何らかの偉業を達成した人間の霊魂や、非業の最期を遂げた人間の霊魂は、肉体が消滅したのち、超自然的な力を獲得した。シゲコニアの上に、ルマリトという小さな国があった…

[第十八話]崩御

ゲナデキアという国の領土は、ゲナという惑星の全土を覆っている。ゲナデキアの首都には、スミム神殿と呼ばれる巨大な官祭の神殿がある。その神殿に祀られている神は現人神と呼ばれる。それは生きている人間であり、その職務は、自らの霊力によってゲナデキ…

[第十七話]羽化

昆虫綱形而上目は、ヨウカイ科、ヨウセイ科、テンシ科、カミ科、ホトケ科に分類される。カミ科に属する種は一つしかなく、それは神と呼ばれる。神は、メギトスという島の固有種である。神の卵、幼虫、蛹は、通常の昆虫と同様、人間の目で観察することが可能…

[第十六話]兵器

トクテクとモルメルという二柱の神がいた。彼らは力を合わせて美しい惑星を作り、それをセニサネスと名づけた。そしてさまざまな生物を創造し、セニサネスに棲まわせた。次に二柱の神は、知能の高い生物を創造して、彼らに自分たちを崇拝させようという計画…

[第十五話]病原菌

トワドという辺鄙な村にテミカという老婆が住んでいた。ある日、彼女は高熱を発し、昏睡状態に陥った。村人たちは街から医者を呼んだ。医者は薬を調合し、テミカに飲ませた。しかし、投薬は効果を発揮せず、彼女は五日後に亡くなった。村人たちと彼女の親族…

[第十四話]樹木

世界の中で時間が流れ始めたとき、そこに存在していたものは一粒の樹木の種子のみだった。種子は発芽し、芽は茎となり、茎は幹となった。幹は枝に分岐し、枝はさらに枝に分岐し、それぞれの枝はそれぞれの方向に向かって生長を続けた。その樹木は、自己を増…

[第十三話]発注書

セマソムスという神は、ネミポラという名前の宇宙を創造し、人間を含むさまざまな生物をその中に創造した。人間たちはセマソムスを崇拝し、セマソムスは人間たちに幸福を授けた。人間たちは子孫を繁栄させ、彼らの領土はしだいに拡大していった。しかし、セ…

[第十二話]石板

ナミリテはタジクスと結婚し、娘を出産した。マヤモセと名づけられたその娘は、両親による厳しい教育のもとに成長した。彼女の博識は古今に並ぶ者なく、その評判は皇帝の耳にまで達するに至った。皇帝は彼女を皇宮に召し出し、彼女に内侍の職を授けた。皇宮…

[第十一話]記憶

ルマソミナは、メキテスという神が創造した惑星の一つである。ルマソミナでは生物が発生した。生物は進化し、無数の種が生まれた。生物の進化は、高度な知能を持つ種を生み出すに至った。その種は自分たちを人間と呼んだ。人間たちは、その高度な知能を使っ…

[第十話]落書

ラースワという惑星には、さまざまな生物と神々が棲息していた。人間と呼ばれる種類の生物は敬神の念が篤く、至る所に神殿を建てて神々を祀っていた。神々はそれを喜び、その返礼として人間たちに福徳を授けた。あるとき、ミゼレンダという人間に一柱の神が…

[第九話]箱

トエニシコという神は、宇宙の創造者としての才能に恵まれていた。トエニシコが創造する宇宙は、その中に創造された天体についても、惑星の上に創造された生物についても、その美しさにおいて、他の神々が創造したものをはるかに凌駕していた。トエニシコが…

[第八話]怪獣

テシクトルという都市には道徳的な腐敗が蔓延していた。天界の神々はテシクトルに対する処置をめぐって鳩首し、破却以外の選択肢はないと衆議一決した。彼らは、テシクトルを廃墟に帰せしめるため、一匹の巨大な怪獣を創造し、ミラセノスという名をそれに与…

[第七話]図書館

ゴラムスは図書館を創造した。その図書館は、壁と床と天井のそれぞれに書架が設置された立方体の部屋から構成されていた。それらの書架は、その中央に正方形の穴があり、その穴を通ることによって隣または上下の部屋へ移動することができた。その図書館が所…

[第六話]招き猫

テシルスは宿場町の片隅で旅籠を営んでいた。しかし客の入りはきわめて悪く、雨漏りを修繕する費用にも事欠くありさまだった。ある日テシルスは、街道の脇に捨てられていた子猫を拾って帰った。するとその日を境として、彼の旅籠は客足が伸び始めた。彼はそ…

[第五話]階層

クトゥブスは宇宙を創造した。宇宙は膨張し、さまざまな天体が生まれ、惑星には生物が発生し、生物は進化した。宇宙を創造したのち、クトゥブスは眠りに就き、そして夢を見た。その夢の中で、彼は、自分が創造した宇宙の中にある惑星で暮らしている、ラサイ…

[第四話]人身御供

マルトゼという山には、一匹の巨大な蛇が棲んでいた。一年に一度、その蛇は麓の村に住む人々に一人の人間を人身御供として要求した。人身御供の年齢と性別は、蛇が指定したとおりでなければならなかった。人身御供の提供が約束の期日に一日でも遅れると、蛇…

[第三話]楽園

クキゾマは楽園を造った。楽園は半径七千由旬の円盤で、中央に山が聳え、その周囲には無数の川や湖があった。クキゾマは人間を造り、楽園に住まわせた。そして彼らのために、美味なる果実を実らせるさまざまな植物を造った。人間たちはそれらの植物によって…

[第二話]仏像

ある年、日照りが何十日も続いた。このまま雨が降らなければ飢饉となることは確実だった。ケルムサスは丈六の仏像を造り、その仏像に降雨を祈願した。仏像はその願いを聞き届け、大地に雨をもたらした。次の年、疫病が猛威をふるった。人々はケルムサスが造…

[第一話]対照実験

タムスヒルバは二つの宇宙を創造した。彼女はその一つをマギトデと名付け、もう一つをカナユワと名付けた。彼女は、マギトデとカナユワの物理的な定数に少しだけ差を与えた。四億年後、どちらの宇宙でも生物が発生した。生物は繁栄し、星から星へと居住地を…