[第一話]対照実験

タムスヒルバは二つの宇宙を創造した。彼女はその一つをマギトデと名付け、もう一つをカナユワと名付けた。彼女は、マギトデとカナユワの物理的な定数に少しだけ差を与えた。

四億年後、どちらの宇宙でも生物が発生した。生物は繁栄し、星から星へと居住地を広げていった。しかし、カナユワの生物は発生から三十八億年を経過したころから衰退を開始し、その二億年後に絶滅した。そののち、タムスヒルバはそれらの宇宙から離れ、別の仕事を開始した。

五億年後、キゴラムスは、放置されていたマギトデを発見し、そこを居住地と定めた。マギトデの生物は依然として繁栄を保っていた。霊的な能力を持つ生物は、神殿を造営し、キゴラムスを奉祀した。

あるとき、マギトデの生物の一匹がキゴラムスに尋ねた。「この宇宙は、いかなる目的で存在するのですか」

キゴラムスは答えた。「この宇宙は現在、目的を持っていない。かつては目的を持っていたのかもしれないが、それは私にも分からない。この宇宙を創造したのは私ではなく、私はその創造者を知らないからだ」

その生物は言った。「では、この宇宙に目的を与えてください」

キゴラムスは言った。「では、この宇宙の創造者をこの宇宙に呼び戻すことをこの宇宙の目的としよう」

そして三億年が経過した。マギトデの生物の一匹がキゴラムスに尋ねた。「この宇宙は、いかなる目的で存在するのですか」

キゴラムスは答えた。「この宇宙の目的は、この宇宙の創造者をこの宇宙に呼び戻すことだ」

その生物は、どうすれば創造者を呼び戻すことができるだろうかと考えた。そして、マギトデを膨張させてみることにした。マギトデの半径は一秒後には二倍になり、二秒後には四倍になり、三秒後には八倍になった。マギトデは、周辺の宇宙を次々と呑み込んでいった。

タムスヒルバは、マギトデが突如として膨張を開始したことに気付くと、その宇宙に舞い戻り、宇宙を膨張させている生物に対して、膨張を止めるように命じた。

その生物は尋ねた。「あなたはこの宇宙の創造者ですか」

タムスヒルバは答えた。「そうです」

その生物は、タムスヒルバの回答に満足し、マギトデの膨張を停止させようとした。しかし、膨張は止まらなかった。タムスヒルバも、膨張を停止させるためにさまざまな方法を試みたが、効果は得られなかった。

そのとき、マギトデが言葉を発した。「タムスヒルバよ、そのようなことをしても無駄です。私の膨張を停止させる手段は存在しません」

マギトデは、そののちも一定の速度で膨張を続けた。