[第三話]楽園

クキゾマは楽園を造った。

楽園は半径七千由旬の円盤で、中央に山が聳え、その周囲には無数の川や湖があった。

クキゾマは人間を造り、楽園に住まわせた。そして彼らのために、美味なる果実を実らせるさまざまな植物を造った。人間たちはそれらの植物によって労せずして腹を満たすことができた。

さらにクキゾマは、一株の柿の木を造り、楽園の中央に聳える山の頂にそれを植えた。そして彼女は人間たちに言った。「山の頂にある柿の木は、私が自分のために造ったものです。あなたたちはその実を食べてはいけません」

人間たちはクキゾマの戒めを守り続けた。しかし彼らは、柿の実というのはどんな味がするのだろうという好奇心をしだいにつのらせていった。そしてある日、彼らは山に登り、戒めを破った。柿の実は、美味であったのみならず、人間たちの脳に法悦をも与えた。

クキゾマは、人間たちに対する罰として、彼らを楽園から追放することにした。彼女は楽園から東へ三万由旬の位置に苦界を造り、人間たちをそこへ移した。そして、彼らが楽園に戻ってくることを防ぐために、楽園の周囲に四天王を配置した。

苦界は、一辺が一万四千由旬の正方形で、その地表は岩山と荒野に覆われていた。人間たちは井戸を掘り、畑を耕して命をつないだ。

四千年後、クキゾマは人間たちの罪を赦し、彼らを楽園へ移した。人間たちは罪が赦されたことを喜んだ。しかし、楽園に戻されたことは、彼らにとって喜ばしいことではなかった。なぜなら、苦界にいた四千年の間に、労苦のない生活は彼らにとって耐えることのできないものとなっていたからである。そこで人間たちは、苦界に戻るために再び山に登り、柿の実を食べた。

クキゾマは再び人間たちを苦界へ追放した。彼女は、苦界への追放が彼らにとって罰としての意味を持たないことに気付いていた。そこで彼女は、苦界の東側に、それと隣接する第二の苦界を造った。第二の苦界は、第一の苦界よりもさらに人間たちにとって苛酷な土地だった。彼女は、第二の人間を造り、彼らを第二の苦界に住まわせた。

第二の人間たちにとって、第一の苦界は楽園のように見えるものだった。彼らは、第一の苦界を我が物とするため、武器を造り、そこへ攻め入った。第一の人間たちは急いで武器を造り、第二の人間たちを撃退した。しかし、第二の人間たちは、兵力を増強して再び第一の苦界に攻め入った。

侵攻と撃退は、何度も何度も繰り返された。第一の苦界が第二の人間たちの統治下に置かれたことも一度や二度ではなかった。

四千年後、クキゾマは第一の人間たちの罪を赦し、彼らを楽園へ移した。そののち、柿の実が人間に食べられることは二度となかった。