[第四話]人身御供

マルトゼという山には、一匹の巨大な蛇が棲んでいた。

一年に一度、その蛇は麓の村に住む人々に一人の人間を人身御供として要求した。人身御供の年齢と性別は、蛇が指定したとおりでなければならなかった。人身御供の提供が約束の期日に一日でも遅れると、蛇は怒り、口から火を吐いて田畑を焼いた。

ある年、蛇は、二十歳から二十五歳までの女性を人身御供として要求した。その条件を満たす村人は七人いた。

サザミキは、蛇が要求している条件を自分が満たしていることを告げられると、自ら人身御供に志願したいと応じた。そして彼女は、村はずれに作られた祭壇に身を横たえた。しかし彼女は、決して犠牲となることを望んだわけではなかった。彼女は体の下に一振りの長剣を隠していたのである。

やがて蛇が現われ、祭壇の前でその巨大な鎌首をもたげた。サザミキは起き上がり、蛇の喉元を剣で薙ぎ払った。しかし、蛇の皮膚は鋼のように硬く、それを切り裂くことはできなかった。蛇は長い舌をあやつってサザミキから剣を奪い、それを彼方へ投げ飛ばした。そして彼女の体を舌で搦め捕り、喉の奥へ運んだ。

蛇の消化管の壁面は青白い光を放っていた。サザミキは消化管の奥に向かって歩いていった。消化管は狭い円管だったが、三時間ほど歩いたところに出口があり、その先には広大な空間が広がっていた。上空には太陽があリ、大地には森や川や畑などがあった。そして、彼方には山脈が連なっていた。

川のほとりには十数軒の民家が立ち並んでいた。サザミキはそのうちの一軒を訪ね、その家に住んでいた人々と会話を交した。

その家に住んでいたのは、人身御供にされた人々と、彼らの子孫たちだった。彼らはサザミキに、人身御供にされた人間は、消化されてしまうわけではなく、蛇の体内で生き長らえ、子孫を作ることもできるのだと語った。

サザミキは、山脈の彼方には何があるのかと住人たちに尋ねた。住人の一人が、何があるのかは分からないと答えた。山脈の彼方に何があるのかを知ろうとして過去に何人かの人間が山を越えようとしたが、彼らのうちでここへ戻ってきた者は誰もいないと彼は語った。

山脈の彼方に何があるのかを自分が確かめて来よう、とサザミキは言った。住人たちは彼女を引き留めたが、彼女の意志は固かった。

切り立った崖をよじ登り、山嶺に立ったサザミキは、眼下に集落があるのを見た。その瞬間、彼女の体は巨大な蛇に変化していた。そして彼女は、自分が何をしなければならないかということを悟った。彼女は山を下り、人々に人身御供を要求した。