[第六話]招き猫

テシルスは宿場町の片隅で旅籠を営んでいた。しかし客の入りはきわめて悪く、雨漏りを修繕する費用にも事欠くありさまだった。

ある日テシルスは、街道の脇に捨てられていた子猫を拾って帰った。するとその日を境として、彼の旅籠は客足が伸び始めた。彼はその子猫にノルギナという名前を付けて大切に育てることにした。

テシルスの旅籠に投宿する客はその後も増加の一途をたどった。彼は宿場町の一等地を購入して、そこに巨大な別館を建てた。さらに彼は、別の宿場町にも次々と旅籠を建設していった。

テシルスに拾われてから三十年目の年にノルギナは天寿を全うした。天上に昇ったノルギナは神々の一員として迎え入れられた。テシルスは人里離れた山の頂上に神殿を建立し、そこでノルギナに対する祈りを捧げた。

天上での暮らしはノルギナにとって快適なものだった。しかし彼女は下界を見下ろすたびに憂鬱になった。下界では子猫を捨てる人間が跡を絶たなかったからである。そこで彼女は、子猫を捨てた人間の魂と、その人間に捨てられた子猫の魂とを入れ換えることにした。

人語を解さず、猫のように鳴く人間が世界の各地に出現した。人々は彼らを猫人間と呼んだ。猫人間たちの共通点が明らかになるや否や、子猫を捨てる人間は激減した。

ノルギナは、自分の神殿を中心とする半径五百里の土地からすべての人間を追放し、すべての猫と猫人間をその土地に集め、そこに国家を建設した。人間たちは、土地を取り戻すため、猫の国に軍隊を派遣した。しかし、軍隊はノルギナによって駆逐された。

猫人間たちは、捕虜にした人間たちから知識を吸収した。そして田畑を耕し、工場を建設した。彼らは多くの子供を産み、領土を拡大した。数十年のうちに、猫の国の領土は、彼らの惑星にあるすべての大陸を覆い尽した。猫人間たちは人間を奴隷として使役した。

神々の多くは、奴隷にされた人間たちを不憫に思った。そこで彼らは、猫人間と同等の権利を人間に与えてほしいとノルギナに要請した。しかし、彼女はその要請を聞き入れなかった。神々は彼女を捕え、巨大な惑星の中心に彼女を幽閉した。そして、猫人間たちに対して、彼ら自身と同等の権利を人間たちに与えよと命じた。

惑星の中心でノルギナは、自分の能力を増大させることにのみ心血を注いだ。そして数百万年後、自分を幽閉している惑星を破壊し、神々の頂点に君臨した。

猫人間たちと人間たちが棲んでいた惑星は、ノルギナが幽閉されていた間に、膨張した太陽に呑み込まれていた。そこで彼女は、新しい惑星を創造した。そして、さまざまな生物を創造してその惑星に棲まわせた。次に彼女は人間を創造して、惑星の管理を彼らに委ねた。そして最後に彼女は猫を創造した。彼女は猫たちに、彼らが快適に暮らすために必要となるあらゆるものを与えた。