[第九話]箱

トエニシコという神は、宇宙の創造者としての才能に恵まれていた。

トエニシコが創造する宇宙は、その中に創造された天体についても、惑星の上に創造された生物についても、その美しさにおいて、他の神々が創造したものをはるかに凌駕していた。トエニシコが創造した天体や生物を見た神々は、口を極めてそれらを讃美した。

しかし、トエニシコの才能を妬む神々も少数ながら存在していた。彼らは共謀してトエニシコを拘束した。そして彼の能力の多くを封印し、彼が創造した惑星の一つへ彼を送致し、その惑星に棲息している生物の体を彼に与えた。

トエニシコと同じ種類の生物たちは、社会を作り、互いに助け合って暮らしていた。トエニシコは彼らの社会の一員として迎え入れられた。

トエニシコは自分が創造した宇宙について豊富な知識を持っていた。彼はその知識を応用して有用な技術を次々と生み出していった。生物たちは惜しみない賞讃を彼に捧げた。しかし、技術の開発が彼に与える満足感は、彼にとって取るに足りないものだった。真の満足感を彼に与えるものは、思いのままに宇宙を創造することのみだった。

トエニシコは、自分がこの宇宙に幽閉されていることを善良な神々に知らせれば、彼らはおそらく自分をここから救出し、能力の封印を引きはがしてくれるに違いないと考えた。そこで彼は、銀河を移動させる装置を開発した。

神々は、トエニシコが創造した宇宙の中で、銀河の一つが移動を開始したことに気づいた。その銀河が長い旅を終えて停止すると、今度は別の銀河が移動を開始した。その銀河は、最初に移動した銀河の近傍で停止した。そのようにして千八百個余りの銀河が移動し、それらは六十六個の文字を形成した。それらの文字を読んだ神々は、トエニシコがその宇宙に幽閉されていることを知った。

銀河で書かれた手紙には、トエニシコがいる惑星の座標も記されていた。彼の苦境を知った善良な神々は、彼を救出するために大挙してその惑星に降臨した。

トエニシコを幽閉した神々は、もしも彼が救出されたならば彼は自分たちに復讐するに違いないと考えた。そこで彼らは一個の立方体の箱を造った。その箱の扉は、ひとたび閉ざされたならば、いかなる神といえども再び開くことのできないものだった。彼らはトエニシコを幽閉した宇宙をその箱に入れ、その扉を閉ざした。

トエニシコの救出に向かった神々は、彼の能力を封じ込めていた封印をはがした。そして、彼とともに、彼が創造した宇宙から外へ出ようとした。しかし彼らは、自分たちがいる宇宙は箱の中にあり、自分たちは永遠にこの箱から外へ出ることができない、ということを知った。

箱は、トエニシコが創造した宇宙を入れることのできる最小限の大きさしかなかった。宇宙を創造することを楽しみとする神々にとって、宇宙を創造するための空間が存在しないというのは由々しき問題だった。

そこで、箱の中の神々は、トエニシコが創造した宇宙を二分の一に縮少し、さらに自分たちの身長も二分の一に縮少した。そして彼らは、箱の八分の一の体積を持つ七個の宇宙を創造した。その結果、箱は再び満杯となった。そこで彼らは、それまでに創造された宇宙と自分たちを二分の一に縮少し、五十六個の宇宙を創造した。

このようにして、箱の中の神々は末永く宇宙を創造し続けた。