[第十一話]記憶

ルマソミナは、メキテスという神が創造した惑星の一つである。

ルマソミナでは生物が発生した。生物は進化し、無数の種が生まれた。生物の進化は、高度な知能を持つ種を生み出すに至った。その種は自分たちを人間と呼んだ。

人間たちは、その高度な知能を使ってさまざまな技術を発達させた。彼らはやがて、肉体から精神を取り出し、物質にはまったく依存しないでそれを永遠に生かし続ける、ということを可能にする技術を開発した。それ以来、すべての人間は、肉体の寿命が尽きたのち、死体から精神が取り出され、精神のみの存在としてさらに生き続けることとなった。

肉体から取り出された精神が存在する場所は、精神のために人間たちが創造した空間だった。人間たちは、その空間をモザルタと名づけた。モザルタは、無限の広さを持ち、永遠に存在し続けることができるものだった。メキテスは、無限の広さと無限の寿命を持つ空間を有限の被造物が創造したことに感銘を覚え、その空間について他の神々に報告した。神々は、その空間を注意深く見守ることにした。

時が流れ、突如としてルマソミナに終末が訪れた。重力崩壊を起こした恒星から放射された粒子線が、ルマソミナの生物をことごとく死滅させたのである。しかし、モザルタとその中の精神たちは、そののちも存在し続けた。

肉体を持つ人間の死滅は、モザルタへの新たな精神の加入を停止させた。これは、モザルタの精神たちにとって放置しておくことのできない問題だった。そこで彼らは、精神を増殖させるために、生物が生育するために必要な環境が得られる場所へルマソミナを移動させ、さまざまな生物を復活させた。そして、自分たちの中から二柱の精神を選び、肉体を持つ人間として彼らをルマソミナに下生させた。

二人の人間は子供を作り、彼らの子供たちもまた子供を作った。彼らの子孫たちは、新しい土地を求めてルマソミナの各地へ散らばっていった。彼らの精神は、肉体の寿命が尽きたのち、死体から取り出され、モザルタに迎え入れられた。

そのころモザルタでは、精神が行方不明になるという事件が頻繁に発生するようになった。行方不明になる精神は日を追って増加していった。彼らがどこへ行ったのかということは、別の現象の発生によって明らかとなった。それは、モザルタに新しく加入した精神が、自分がルマソミナで誕生する以前の記憶を思い出す、という現象である。その記憶は、行方不明になっている精神が持っているはずのものだった。モザルタの精神たちはそれらの二種類の現象を結びつけ、ルマソミナで人間が産まれた場合、まったく新しい精神がそこに宿るのではなく、モザルタに存在していた精神がそこへ移植されるのであり、その精神は、肉体の内部にいる間、移植された時点よりも以前の記憶を思い出すことができないのだ、と考えた。

肉体を持つ人間を創造することによって精神を増殖させるという計画は、このようにして失敗に終わった。しかし、モザルタの精神たちにとって、自分たちの個体数が増加しないという状態は、甘んずることのできないものだった。彼らは、精神を増殖させる方法を求めて、そののちも試行錯誤を続けた。