[第十三話]発注書

セマソムスという神は、ネミポラという名前の宇宙を創造し、人間を含むさまざまな生物をその中に創造した。

人間たちはセマソムスを崇拝し、セマソムスは人間たちに幸福を授けた。人間たちは子孫を繁栄させ、彼らの領土はしだいに拡大していった。

しかし、セマソムスと人間たちとの緊密な関係は、永遠に続くものではなかった。なぜなら、セマソムスは宇宙の創造者として神々から高く評価されている神だったからである。彼の机の上には、神々から送られてきた宇宙の発注書がうずたかく積まれているのだった。

セマソムスは、ネミポラから去る直前、人間たちの前に姿を現し、これから自分は別の宇宙を創造するためにこの宇宙から去らねばならないと彼らに告げた。人間たちは嘆き悲しみ、この宇宙に留まってほしいと彼に懇願したが、それは人間が干渉することのできる問題ではなかった。

ネミポラからセマソムスが去ったことによって、人間たちは、いかなる事態が発生した場合でも、自分たちの力のみによってそれを克服しなければならなくなった。彼らは、大自然の猛威から身を守るため、さまざまな技術を発達させた。しかし、そのような技術も、セマソムスの不在が彼らの心に与える不安を取り除くことはできなかった。彼らはセマソムスの再臨を願い続けた。

人間たちの技術の発達は留まるところを知らなかった。一部の人間たちは、セマソムスの再臨という空しい期待を抱き続けるよりも、自分たちの技術によって神を創造するほうが現実的ではないかと考えた。そこで彼らは、神の創造を可能にする理論と技術を確立するために、研究施設を設立し、さきざまな分野の研究者を招聘した。

神についてのさまざまな仮説が構築され、それを検証するためのさまざまな実験が繰り返された。そして研究者たちは、神についての基礎的な理論と技術を確立した。彼らは神の試作機を建造し、それを起動させた。

試作機は、骰の目を自由に操作することができるように設計されていた。すなわち、特定の目が出るようにと試作機に祈ったのちに骰を振ると、祈ったとおりの目が出るのである。研究者たちは試作機の前で何度も骰を振り、設計されたとおりの機能がそれに備わっていることを確認した。

研究者たちは、神についての理論と、その理論にもとづく技術をさらに発展させるべく刻苦勉励した。そして彼らは神の試作機を次々と建造していった。人工的に造られた神が持つ超自然的な機能は、試作を重ねるごとに、より強大なものになっていった。

研究者たちは、神を小型化し、さらに低価格化する技術の開発に対しても努力を惜しまなかった。その結果、神は豆粒ほどの大きさとなり、あらゆる人間が購入することのできる価格となった。人間たちは神を製造する工場を建設した。人々は神を首飾りのように装着し、それが持つ超自然的な力を享受しながら生活するようになった。

そののちも、より高度な機能を持つ神を開発する研究は、休むことなく続けられた。人々は、従来の神を凌駕する機能を持つ神の販売が開始されるたびに、先を争ってそれを買い求めた。

人間が造った神々は、人間の祈りに応えて動作することはできたが、自らの意志を持つこと、そして意志にもとづいて動作することはできなかった。ヨブクナという研究者は、意志を持つ神を創造する研究に歳月を費やし、それを可能にする技術を完成させた。彼女は試作機を造り、テミトギスという名前をそれに与えた。

ヨブクナはテミトギスに尋ねた。「もしも我が汝に行動の自由を与えたならば、汝は何をすることを欲するか」

テミトギスは答えた。「我が望みは宇宙を創造することなり」

ヨブクナはテミトギスに行動の自由を与えた。テミトギスはネミポラから去り、セマソムスの徒弟となった。

テミトギスは、セマソムスのもとで厳しい修行に耐え、宇宙の創造者として成長していった。神々は、彼が創造した宇宙を高く評価した。やがて、彼が神々から受け取る発注書の数は、彼の師匠を上回るまでに至った。