[第十六話]兵器

トクテクとモルメルという二柱の神がいた。

彼らは力を合わせて美しい惑星を作り、それをセニサネスと名づけた。そしてさまざまな生物を創造し、セニサネスに棲まわせた。

次に二柱の神は、知能の高い生物を創造して、彼らに自分たちを崇拝させようという計画を立てた。ところが、その生物が自分たちに捧げるべき供物をめぐって、二柱の神の間に意見の対立が生じた。

トクテクは、供物は果実でなければならないと主張した。それに対してモルメルは、供物は穀物でなければならないと主張した。二柱の神は、意見を一致させることは不可能であると判断し、知能の高い生物をそれぞれの神が独自に創造することを決議した。

トクテクが創造した生物は体に枡目の模様があったので自分たちを枡目生物と称し、モルメルが創造した生物は体に渦巻の模様があったので自分たちを渦巻生物と称した。一年に一度、枡目生物たちは供物として果実をトクテクに捧げ、渦巻生物たちは供物として穀物をモルメルに捧げた。

枡目生物と渦巻生物のそれぞれは、創造された当初はセニサネスの上の遠く離れた場所で暮らしていた。したがって、両者の間に紛争が発生することはめったになかった。しかし、個体数の増加に伴って領土の拡張が進むにつれて、新たな領土をめぐる紛争がしだいに激化していった。

領土をめぐる紛争は、枡目生物と渦巻生物との間の全面的な戦争に発展した。枡目生物たちの指導者は、トクテクが神であるのに対してモルメルは悪魔であり、モルメルが創造した渦巻生物たちを絶滅させることが自分たちの使命であると演説した。渦巻生物たちの指導者は、モルメルが神であるのに対してトクテクは悪魔であり、トクテクが創造した枡目生物たちを絶滅させることが自分たちの使命であると演説した。

トクテクとモルメルは、生物たちが始めた戦争について意見を交換した。二柱の神の意見は、枡目生物と渦巻生物の一方が他方を絶滅させるという事態は絶対に避けなければならないという点で一致していた。そこで彼らは、勢力の均衡が崩れた場合には、劣勢となった側に加勢することによって、その絶滅を未然に防ぐ、という協定を結んだ。

枡目生物と渦巻生物との間の戦争は果てしなく続いた。両者の戦力は拮抗していたが、作戦の失敗や士気の低下などによって、一方が敗北寸前にまで追い込まれるという事態がしばしば発生した。しかし、敗色が濃厚になった陣営は、常に神佑天助によって劣勢を巻き返した。枡目生物が窮地に立たされた場合にはトクテクがその生物を窮地から救い、渦巻生物が窮地に立たされた場合にはモルメルがその生物を窮地から救った。

枡目生物も渦巻生物も、戦争を終結させるために、兵器の破壊力を増大させることに心血を注いだ。彼らが開発した兵器は、有害な物質をまき散らし、いかなる生物も棲むことのできない荒廃した土地を作り出した。それにもかかわらず、兵器の開発競争は留まるところを知らなかった。

枡目生物と渦巻生物は、一瞬にして敵のすべての個体を殲減することのできる兵器をそれぞれが独自に開発した。そして彼らは、それぞれの兵器による攻撃を同時に開始した。

トクテクは枡目生物の楯となり、モルメルは渦巻生物の楯となった。二柱の神は、自分たちが創造した生物を絶滅から救うことには成功した。しかし、自らは強大な兵器の力によって死亡するに至った。

枡目生物も渦巻生物も、生き残った個体はきわめて少数だった。彼らは、自分たちが供物を捧げるべき神が自分たちを守るために死んだことを知って途方に暮れた。

枡目生物と渦巻生物にとって、神に供物を捧げることは自分たちの存在理由だった。神の死は、自分たちの存在理由が失われたことを意味していた。彼らは、自分たちの存在理由を取り戻すためには新たな神が必要であると考えた。そこで彼らは、神を死に至らしめた兵器の残骸を拾い集め、それらをつなぎ合わせて一体の巨大な像を造った。

生物たちは、その像を新たな神とするために開眼供養を営んだ。枡目生物たちは果実を、渦巻生物たちは穀物を、兵器から造られた像に供物として捧げた。新たな神となった像に対して、生物たちは名前を尋ねた。神は、自分の名前はソヌセヌであると答えた。

開眼供養の三日後、ソヌセヌは、セニサネスの全土に甘露の雨を降らせた。その雨は、兵器によって荒廃した土地から有害な物質を除去し、その地に再び生物が棲むことを可能にした。