[第二十六話]弁明

トルベリサという国のとある農村に、ガリモスという農夫が住んでいた。シギマ暦二四二四年の農閑期のとある夜、彼は神と名乗る者の声を聞いた。

神はガリモスに次のように告げた。「人間たちはさまざまな宗教を持っている。それらのどの宗教についても、その教義の中には真理が含まれている。しかし、どの宗教の教義も、真理ではないものをより多く含んでいる。そこで我は汝に使命を与える。それは、真理のみから構成される教義を持つ宗教を布教することである。真理が何であるかということは、これから順を追って汝に伝授されるであろう」

神からガリモスへの真理の伝授は、それから三日間、昼も夜も休むことなく続いた。神の声が伝授の終了を告げると、睡魔がガリモスを襲い、彼は死んだように眠った。

深い眠りから目覚めたガリモスは、神通力を得るための修行を開始した。修行の方法は、神がガリモスに伝授した真理の中に含まれていた。ガリモスは、昼間は野良仕事に汗を流し、夜は修行にいそしむという生活を続けた。三年後、彼は農場を辞して、真理のみから構成される教義を持つ宗教の布教を開始した。

ガリモスが布教する宗教を人々はガリモス教と呼んだ。分別のある人々は、ガリモス教の教義は既存のさきざまな宗教の教義を寄せ集めたものにすぎず、それは信仰する価値のある宗教ではないと判断した。しかし、若者たちの多くはそうではなかった。彼らは、正しい方法で修行を実践すれば誰でも神通力を得ることができるというガリモスの教えに魅力を感じた。

ガリモスは各地の大学を巡回し、その門前で学生たちに真理を語った。学生たちは立ち止まって彼の言葉に耳を傾けた。彼の話が終わると、半数の学生は立ち去ったが、残りの半数は彼の弟子になることを志願した。

シギマ暦二四三一年には、ガリモスの弟子の数は数千人に達していた。彼は弟子たちから寄付を集め、それを資金にして広大な土地を購入し、そこに道場を開設した。弟子たちのうちで修行に専念したいと望む者たちは、親子の縁を断って道場の門をくぐった。

宗教に詳しい有識者たちは、ガリモス教は人間を洗脳して操り人形にする危険な宗教であると警鐘を鳴らした。しかし、ガリモス教に対する批判は、しだいに下火になっていった。なぜなら、公の場でガリモス教を批判する者たちは、何者かによって次々と殺害されていったからである。

シギマ暦二四三四年三月、検察官たちは、それらの殺人事件はガリモスとその弟子たちによる犯行であると断定し、道場を家宅捜索した。そして、ガリモスと、実行犯と目される七名の弟子を殺人罪で起訴した。検察官たちは法廷で、道場から押収した物品や殺人現場に残された遺留品を示し、これらは被告人が犯人であることを裏付ける動かぬ証拠であると主張した。それに対してガリモスと弟子たちは、自分たちは事件にはまったく関与しておらず、それらの証拠は捏造されたものであると反論した。

さらにガリモスは、検察官が弁論の中で、「修行を実践すれば神通力を得ることができるという虚偽の言説によって多くの若者たちを入信させた」と述べたことに対しても、「それは虚偽ではない」と反論した。

すると検察官は、「それでは被告人はどのような神通力を持っているのか」と質問した。

ガリモスは答えた。「予定されている神の行動をあらかじめ知ることができる。たとえば七月二十三日にトネグラに隕石が落下する。九月七日にクスモリカ山が噴火する。来年の二月十八日にセグナで大地震が発生する。そして二四三八年十月四日に世界は終末を迎える。そのとき、正しい信仰を持つ者は天国に導かれ、そうでない者は地獄に堕される」

ガリモスの弟子ではない人々は、彼の予言は根も葉もない絵空事だと思った。したがって、七月二十三日にトネグラの砂漠に巨大な隕石が落下したとき、彼らのうちの大多数は、その異変とガリモスの予言との一致は単なる偶然にすぎないと考えた。

しかし、カナビクアという国にあるクスモリカという火山が九月七日に噴火すると、ガリモスの予言に対する人々の評価は一変した。予言の的中が偶然の一致であると考える人間は、もはや少数派だった。

翌年の二月十八日にセグナで発生した大地震は、多くの建物を倒壊させたにもかかわらず、死傷者はきわめて少数だった。その理由は、ほとんどすべての住民が前日までに安全な場所へ避難していたからである。

同じ年の四月二十三日、ガリモスに対する死刑判決が確定した。その日の夕刻、彼が収監されている拘置所の近くの公園で、彼の釈放を求める集会が開かれた。集まった民衆は公園を埋め尽し、周辺の道路にあふれ出た。民衆の一部は暴徒と化し、拘置所へ押し寄せた。看守たちにできたことは自分たちの身を守ることのみだった。

ガリモスは民衆に守られて彼の道場に帰還した。彼の弟子たちは歓呼の声で彼を迎えた。彼は道場に集まった民衆たちに向かって、神から伝授された真理について語った。

ある出版社は、ガリモスが語った真理の言葉を採録した書物を刊行した。その書物は飛ぶように売れ、さらにさまざまな言語に翻訳され、多くの国の人々によって読まれた。

シギマ暦二四三八年十月四日、世界は終末を迎えた。ガリモスの前には、彼の審判を待つ長い行列ができた。彼の背後には、正しい信仰を持つ者を天国に導く階段と、そうでない者を地獄に堕す断崖があった。