[第五十八話]食材

タキロガという惑星では、様々な種の生物が繁栄している。それらの種のうちには、進化によって高い知能を獲得したものもあり、その種の生物は自身の種を人間と呼んでいる。

人間たちは言語を発明し、音声によって意思の伝達を図った。さらに彼らは文字を発明し、それを使って自身の歴史を記録した。さらに彼らは、時間軸上の出来事の位置を明示するために、天体の運行に基づく暦法を考案した。彼らは、タキロガの自転周期を日と呼び、タキロガの衛星が繰り返す満ち欠けの周期を月と呼び、タキロガの公転周期を年と呼んだ。そして、彼らのうちの多くが神として崇める人物が生まれた年を、年数を数える上での基準年として定め、その紀年法を聖誕暦と呼んだ。

人間たちは、国と呼ばれる多数の共同体のいずれかに所属している。それぞれの国は、タキロガの地表面の上に自身の領土を持ち、その領土に関する主権を主張している。人間たちの歴史は、国にとっての利益をめぐる国と国との間の戦争に彩られている。聖誕暦一九四五年、戦争の回避を目的とする国家連盟と呼ばれる組織が設立され、タキロガに存在する国の大多数がそれに加盟した。国家連盟は、平和の維持を目的とする独自の軍隊を創設した。

人間たちは科学技術を発達させることに多大な努力を費やした。そして科学技術の発達は、人間たちが宇宙に進出することを可能にした。聖誕暦一九六九年、人間たちは、タキロガの衛星の表面に二名の人間を送り、彼らをタキロガに帰還させることに成功した。人間たちはその後も、さらなる遠方へ人間たちを進出させるための研究開発を続け、聖誕暦二〇八七年には、タキロガと同じ惑星系に属する別の惑星の表面に、研究者たちが常駐する施設を開設した。

聖誕暦二一三〇年代に実用化された亜空間航法は、宇宙における人間たちの活動範囲を著しく拡大した。人間たちは、タキロガが属する惑星系とは別の惑星系に属する、惑星や衛星や彗星などの様々な天体に、調査隊の隊員たちを乗せた宇宙船または無人の探査機を派遣した。そして、人間にとって有用な資源を産出する天体が発見された場合には、その資源を採掘する施設をその天体に建設した。

有人の宇宙船または無人の探査機が派遣された天体の個数は、聖誕暦二一七四年に千個を超えた。それらの天体の大多数は、いかなる生物も棲息しない荒涼とした世界だったが、それらの天体のうちの二十三個では生物が発見された。生物が発見された天体のうちで、高度な代謝系を持つ生物が棲息しているものはさらに少なく、大多数の天体では、そこに棲息しているのは原始的な生物のみだった。そして、人間に匹敵する知能を持つ生物が棲息している天体は皆無だった。タキロガ以外の天体において、人間に匹敵する知能を持つ生物が初めて発見されたのは、聖誕暦二二〇四年のことである。

テメリサム社という企業が、八三六〇六八という系外惑星番号を持つ惑星に調査隊を派遣することを決定したのは、聖誕暦二二〇三年のことである。天文学者たちは、その惑星に対してミラコマという固有名を与えた。翌年、調査隊を乗せた宇宙船はタキロガの宇宙港を出港し、三か月後にミラコマに到着した。

衛星軌道からミラコマを観測した調査隊は、地表面に建設された無数の人工的な構造物を発見した。さらに彼らは、何らかの意思の疎通を目的として地表面から発信されている電波を傍受した。彼らは、ミラコマには人間に匹敵する知能を持つ生物が棲息していると思われる、とテメリサム社の管制室に報告した。テメリサム社は、ミラコマにおいて知的生命体が発見されたと国家連盟に報告した。

国家連盟に加盟するすべての国は、知的生命体管理条約と呼ばれる、タキロガの人間とは異なる知的生命体の取り扱いについて規定した条約を批准していた。この条約の第二十七条は、タキロガ以外の天体において知的生命体が発見された場合、彼らとの接触には国家連盟の認可が必要であると定めていた。テメリサム社からの報告を受けた国家連盟の事務総長は、各国の大使たちによる緊急の会合を開いた。大使たちは、ミラコマ人との性急な接触は認められず、当面は衛星軌道での情報収集を続けることが必要であるという点で合意に達した。事務総長はその合意事項をテメリサム社に通達した。

タキロガの科学者たちは、ミラコマに派遣された調査隊が傍受した電波を分析し、それに乗せられた信号が音声であることを解明した。ミラコマ人は、タキロガ人と同様に、意思の疎通のために音声による言語を使用していたのである。言語学者たちはミラコマ人の言語を分析し、それらの文法と語彙を解明した。人工頭脳の技術者たちは、言語学者たちの成果に基づいて、ミラコマ人の言語とタキロガ人の言語との間で発話を双方向に翻訳する装置を開発した。

国家連盟はミラコマ人調査委員会という機関を設立した。この機関の目的は、ミラコマ人たちとの間に友好的な関係を構築する方法について検討することだった。その目的を果すために、委員会は様々な分野の研究者を招聘し、生物学的および心理学的な特性、政治や経済の構造、宗教的および芸術的な活動など、ミラコマ人をめぐる各種の問題についての分析を彼らに委託した。さらに委員会は、テメリサム社が派遣したものとは別の調査隊をミラコマに派遣する計画を立てた。その調査隊が搭乗する宇宙船には、ミラコマ人についてさらに詳細に調査するために必要となる機器が搭載された。

ミラコマ人たちの文明は、火力発電または水力発電によって得られた電力を事業所や家庭に送電し、それによって各種の電気機器を作動させるという段階に到達していた。しかし彼らは、人工衛星を軌道に乗せる技術や、知能を持つ機械を作る技術は、まだ確立していなかった。

聖誕暦二二一六年、ミラコマ人調査委員会は、それまでの調査の結果をまとめた報告書を国家連盟の事務総長に提出した。事務総長は各国の大使たちを招集して会合を開き、ミラコマ人との接触の可否について検討した。大使たちが下した判断は、非営利の組織のみに対して、学術的な調査のみを目的とするミラコマ人との接触を認可する、というものだった。

最初にミラコマ人と接触したタキロガ人は、それまで衛星軌道からミラコマ人について調査していた、ミラコマ人調査委員会が派遣した調査隊の隊員たちだった。彼らは電波によるミラコマ人の通信に割り込み、ミラコマの地表での学術的な調査に対する許可を求めた。

ミラコマ人たちの社会においては、タキロガ人たちと同様に、多数の国々が自身の領土に関する主権を主張していた。しかし、タキロガにおける国家連盟に類する組織は、まだ成立していなかった。したがって、調査隊が調査の許可を求めるべき相手は、着陸艇が降下する地点が位置する国の政府だった。その地点の選定は、その国の政府による友好的な待遇を期待することができるか否かという観点から検討された。その結果として選定されたのは、ミトバムナという国が領有する、カラゴタ島という名前を持つ人口七千三百人の島だった。

学術的な調査に対する許可をタキロガ人から求められたミトバムナの政府は、緊急の閣議を開いて対応を検討した。協議の結果、閣僚たちは、タキロガ人によるカラゴタ島における調査を許可するとともに、様々な分野の研究者を招集してカラゴタ島に送り込み、タキロガ人に関する情報収集に当たらせる、ということを決定した。

着陸艇でカラゴタ島に降下した調査隊の隊員たちは、カラゴタ島の住民たちから熱烈な歓迎を受けた。カラゴタ島を行政区画に含む町の町長が、島の住民の代表として挨拶を述べ、そののち、政府が招集した研究者たちが紹介された。研究者の代表が再び挨拶を述べ、その挨拶の中でその研究者は、調査隊による調査には自分たちが全面的に協力すると約束した。

タキロガ人の調査隊は、ミラコマ人の研究者たちによる協力のもとに、予定された調査を滞りなく終えた。ミラコマ人の研究者たちは調査隊に対して、衛星軌道に戻る前に質疑応答の時間を設けてもらいたいと願い出た。調査隊はそれを快諾し、調査期間の二日間の延長を決定した。質疑応答の音声を乗せた電波は、ミラコマの全域に中継された。

ミラコマ人に対する学術的な調査はその後も活発に続けられ、ミトバムナのみならず、それ以外の多くの国々にも調査隊が派遣された。どの国に派遣された調査隊も、その国の人々から歓待され、調査はミラコマ人の研究者たちによる協力のもとに進められた。

国家連盟は、ミラコマ人との接触の認可は非営利の組織のみによる学術的な調査のみに限定するという方針を、長期にわたって崩さなかった。この方針に変化が生じたのは、聖誕暦二二四六年のことである。

タキロガ人の歴史を通じて、彼らの死因の大多数を占めているものは病死だった。人間を疾病から解放するため、各国の政府は医学と薬学の研究に対して優先的に予算を計上した。その結果、タキロガ人は多くの疾病を克服した。しかし、聖誕暦二十三世紀においても依然として不治の病である疾病も少なくなかった。クレザミラ病と呼ばれる疾病も、依然として治療法が確立されていない疾病の一つだった。

薬学の研究者たちは、生物が棲息する惑星が発見されるたびに、その惑星の生物が作り出す物質の中から薬学的な効果を持つものを探し出そうと努めた。彼らの探求の対象は惑星ミラコマに棲息する生物も例外ではなかった。クレザミラ病に対する治療効果を持つ物質を含有する植物がミラコマで発見されたのは、聖誕暦二二三八年のことだった。それは、ミラコマ人たちがソモコナモコと呼ぶ植物である。

ミラコマ人たちにとってソモコナモコは、美味中の美味と称される食材である。それは低緯度地域の森林に広く分布しているが、個体数は極めて少なく、熟練した採集者でも一日の収穫数が十株を超えることは稀だった。ソモコナモコの人工的な栽培を試みたミラコマ人は少なくないが、彼らのうちでそれに成功した者は誰一人としていなかった。ソモコナモコは極めて高額で取引される食材であるため、それを味わうことができるのは、資産家や王族など、一握りの人々に限られていた。

クレザミラ病に対する治療効果を持つ物質をソモコナモコが含有しているということが公表されると、その疾病の患者やその家族は、ミラコマからその植物を輸入することを製薬会社に望んだ。しかし、ミラコマ人との接触は、依然として非営利の組織のみによる学術的な調査のみに限定されていた。各国の製薬会社は、ソモコナモコの商取引を認めるように国家連盟に建議してほしいと自国の政府に陳情した。

聖誕暦二二四六年、複数の国々の大使から提出されたソモコナモコの商取引に関する発議について検討するために、国家連盟の事務総長は、各国の大使たちを招集して会合を開いた。討議の結果、大使たちは、ソモコナモコのみに限定してミラコマ人との商取引を認可する、という判断を下した。

クレザミラ病の治療薬を製造する計画を持つ製薬会社は、ソモコナモコを仲買人から購入するために社員を現地に派遣した。彼らが用船した宇宙船には、ソモコナモコに対する対価として交換するために使われる工業製品が大量に積み込まれた。

モコナモコの仲買人たちは、当初は、対価として提示された工業製品の価値を理解することができなかった。しかし、タキロガ人が持つ高度な科学技術が反映された工業製品を入手することができるならば金に糸目はつけないというミラコマ人は少なからず存在するということが判明すると、仲買人たちは、採集者から買い取ったすべてのソモコナモコをタキロガ人に売却するようになった。

ミラコマ人の資産家たちや王族たちは、日々の食卓からソモコナモコが消失したことに気づいた。彼らはその理由を使用人に尋ね、タキロガ人がそれを買い占めていることを知った。ソモコナモコを産出する森林を自国の領土内に持つ王家は、その植物をタキロガへ輸出することを禁止する勅令を発布した。民主主義国家の資産家たちも、業界団体を通じて政府に圧力をかけ、タキロガへのソモコナモコの輸出を禁止する法案を成立させた。

モコナモコを原料とするクレザミラ病の治療薬を製造している製薬会社は、ソモコナモコの禁輸の解除を申し立てるように国家連盟に建議してほしいと自国の政府に陳情した。複数の国々の大使から提出されたソモコナモコの禁輸解除に関する発議について検討するために、国家連盟の事務総長は各国の大使たちを招集して会合を開いた。討議の結果、大使たちは、ソモコナモコの禁輸解除を求める交渉を任務とする使節団をミラコマに派遣するという判断を下した。

国家連盟から派遣された使節団は、ソモコナモコの産出国を歴訪し、禁輸解除の見返りとして供与されるであろう様々な便宜を提示した。しかし、彼らが提示するいかなる便宜も、ソモコナモコの禁輸を解除させるほどの効力は持たなかった。使節団は、目的を果たすことなくタキロガに帰還し、国家連盟の事務総長に対して、交渉による問題の解決は限りなく不可能に近いと報告した。

聖誕暦二二五三年、国家連盟の事務総長は、各国の大使たちを招集して会合を開いた。討議の結果、大使たちは、武力を背景とする威嚇によってミラコマを国家連盟の管理下に置くという判断を下した。国家連盟は、衛星軌道から地上の目標を破壊する能力を持つ兵器を搭載した戦艦をミラコマに派遣し、ミラコマに存在するすべての国家に対して、それらの国家はタキロガの国家連盟の管理下に置かれることになったと通告した。クレザミラ病の治療薬を製造している製薬会社の社員たちは、仲買人からのソモコナモコの購入を再開した。

ミラコマの国家の多くは、タキロガの国家連盟に主権を明け渡すことに対して頑強に抵抗する姿勢を示した。国家連盟は、抵抗は無意味であるとミラコマ人に思い知らせるために、衛星軌道を周回する戦艦に搭載された兵器を使用した演習を実施した。衛星軌道から放たれた熱線は、標的として選ばれた無人島を瞬時にして蒸発させた。この演習ののち、主権の明け渡しに抵抗するミラコマの国家は存在しなくなった。しかし、徹底抗戦を主張するミラコマ人が一掃されたわけではなかった。タキロガ人による統治を終結させるための闘いに身を投じることを決意した者たちは、ミラコマ解放戦線と称する武装組織を結成し、地下活動を開始した。

国家連盟は、ミラコマの統治を管轄する官庁を設立し、それを総督府と呼んだ。総督府は、圧倒的な軍事力を背景にして、ミラコマを統治する体制を確立した。ミラコマの地上に巨大かつ堅固な建物が建設され、それが総督府の庁舎となった。庁舎の周囲には、総督府の職員とその家族が定住するために必要となる、住居、市場、病院、学校などが次々と建設され、その地域は総督府の城下町を形成した。

総督府が形成した城下町は大量の廃棄物を排出した。総督府はミラコマ人が経営する廃棄物処理業者と契約し、タキロガ人が排出した廃棄物をその業者に処理させた。総督府と契約した業者は、回収した廃棄物を、再利用が可能なものと不可能なものに分別した。前者はそれらを再生する業者に売却され、後者は焼却された。

総督府の職員とその家族の食卓に供される料理の食材は、その大部分がタキロガから宇宙船で運ばれたものだった。彼らが排出する廃棄物の中には、料理に使用されなかった食材も含まれていた。薬学を専門とするミラコマ人の研究者の一部は、彼らが排出した廃棄物の中に含まれている食材を廃棄物処理業者から引き取り、それらに含まれる物質の中から薬学的な効果を持つものを探し出すという研究を進めた。聖誕暦二二六七年、ミラコマ人の薬学者の一人は、ミラコマ人がテベルマス病と呼ぶ疾病に対する治療効果を持つ物質が、タキロガ人がナプトコミと呼ぶ食材に含まれているということを発見した。そしてその後も、ミラコマ人の薬学者たちは、タキロガ人が廃棄した食材の中から有益な物質を次々と発見していった。

聖誕暦二二八四年、サナムリタというミラコマ人の薬学者は、タキロガ人がキブドリゲと呼ぶ食材の中から、ミラコマの動物に対する興味深い作用を持つ物質を発見し、その物質をタリタバタメキと命名した。彼女は、この発見は公表してはならないものであると判断した。なぜなら、もしもその物質の発見について公表したならば、総督府はその物質を自身に対する脅威であると判断し、ミラコマ人がタキロガの食材を入手することを禁止するに違いないと思われたからである。

タリタバタメキは、それを投与されたミラコマの動物に対して瞬間移動の能力を与える物質である。サナムリタは、動物実験を繰り返すことによって、タリタバタメキが動物に与えた瞬間移動の能力はその動物の意志に基づいて発動するということ、そして移動先も意志に基づいて決定することができるということを見出した。

サナムリタは解放戦線の幹部の一人と面会し、タリタバタメキという物質の薬効について説明した。そして、解放戦線の兵士たちのうちの志願者を被験者とする臨床試験を実施させてほしいと依頼した。その幹部から報告を受けた解放戦線の司令官は、幹部たちと密議を凝らし、臨床試験の受け入れを決定した。

タリタバタメキを投与された解放戦線の兵士たちは、ミラコマの他の動物と同様に瞬間移動の能力を獲得した。しかし、能力を獲得した当初は、意図した移動先と実際に出現する地点との誤差が大きく、また、着用している衣服を伴ったまま移動することもできなかった。しかし、それらの問題は、被験者にとって瞬間移動の能力が自家薬籠中の物となるにつれて改善されていった。瞬間移動に充分に習熟した被験者は、自身が着用している衣服のみならず、自身に近接した位置にある任意の物体を伴って移動することも可能だった。

意図した移動先へ正確に瞬間移動することができるようになった被験者は、次に移動距離を伸ばす訓練を開始した。彼らは、タリタバタメキを投与された当初は、石を投げて届く程度の距離しか移動できなかった。しかし、訓練を続けることによって移動距離は飛躍的に伸びていった。充分に訓練を積んだ被験者は、惑星ミラコマを半周した地点への瞬間移動も可能だった。

解放戦線は、総督府から廃棄物の処理を委託された業者との間に、キブドリゲを買い取る契約を交わした。買い取られたキブドリゲは、それを処理するために密林の奥地に建設された工場へ輸送された。その工場でキブドリゲから抽出されたタリタバタメキは、瞬間移動の能力の獲得を希望するすべての解放戦線の兵士に投与された。解放戦線は彼らから構成される特殊部隊を編制した。

聖誕暦二二九一年、解放戦線の司令官は、瞬間移動の能力を持つ兵士たちから構成される特殊部隊に対して出撃命令を下した。彼らの最初の攻撃目標となったのは、ミラコマの衛星軌道を周回しているタキロガの戦艦だった。戦艦の乗組員たちは、突如として艦内に出現したミラコマ人の兵士たちによって武装を解除された。

衛星軌道上の戦艦で何らかの異変が発生したことを総督府が察知したのは、その戦艦からの定時連絡が途絶えたことによってだった。総督府は戦艦に対して状況の報告を求めたが、戦艦はその後も沈黙を続けた。総督府は国家連盟の本部へ現状を報告した。国家連盟の事務総長は、各国の大使たちを招集して会合を開いた。討議の結果、大使たちは、多数の艦艇から構成される艦隊をミラコマへ派遣する、という判断を下した。

総督府は、国家連盟が派遣した艦隊がミラコマの衛星軌道に乗ったことを確認したが、艦隊はその直後に衛星軌道から離脱し、消息を絶った。艦隊が次に出現した場所はタキロガの惑星系だった。国家連盟の事務総長は、ミラコマで何が起きたのかということについての報告を艦隊に求めたが、艦隊からはいかなる返答も得られなかった。

ミラコマから帰還した艦隊は沈黙したままタキロガに接近し、衛星軌道に乗ると同時に地上への攻撃を開始した。戦艦から放たれた熱線はタキロガの地上に存在する軍事施設を次々と蒸発させていった。国家連盟の本部は、突如として出現した部隊によって制圧された。

作戦が成功したという報告を受けた解放戦線の司令官は、敵軍から鹵獲した戦艦に搭乗し、タキロガへ向かった。司令官は、国家連盟が総会を開くために使用してきた議事場の演壇に立ち、タキロガに存在するすべての国家はこの日からミラコマの解放戦線の管理下に置かれると宣言した。そして司令官は、タキロガを制圧する作戦において武勲を立てた者たちに勲章を授与し、そのうちの一人を、タキロガの統治権を掌握する総督に任命した。

タキロガの総督は、国家連盟の本部として使われていた建物を総督府の庁舎として使用することを決定し、その建物およびそれを中心とする地域に建つ建物の多くを接収した。次に総督は、総督府の職員をミラコマで募集した。職員として採用された者たちは家族とともにタキロガに移住した。庁舎の周囲の建物は、総督府の職員とその家族が定住するために必要となる、住居、市場、病院、学校などとして使用された。

総督府の職員とその家族のみが、ミラコマからタキロガに移住した者たちのすべてではない。タキロガを研究対象とする様々な分野の研究者たちも、その多くがその惑星に移住した。彼らが研究対象とする分野の一つは薬学だった。タキロガに移住した薬学者たちは、その惑星の生物が作り出す物質の中から薬学的な効果を持つものを探し出そうと努めた。

タキロガに移住した薬学者たちによる研究は、ミラコマ人に多大なる恩恵をもたらした。彼らが発見した各種の物質は様々な疾病の特効薬としてミラコマに輸出された。さらに彼らは、タリタバタメキと同様に、ミラコマ人に対して特殊な能力を付与する物質も、次々と発見していった。