[第十二話]石板

ナミリテはタジクスと結婚し、娘を出産した。

マヤモセと名づけられたその娘は、両親による厳しい教育のもとに成長した。彼女の博識は古今に並ぶ者なく、その評判は皇帝の耳にまで達するに至った。皇帝は彼女を皇宮に召し出し、彼女に内侍の職を授けた。

皇宮に居並ぶ廷臣たちは、自分たちの列に新たに加わった若き内侍の顔を見るや、霹靂に打たれた。当代随一の肖像画家といえども彼女を前にしては筆を折るに違いないという誰かのつぶやきは、多くの廷臣たちの共感を呼んだ。

独身の貴公子たちは先を争ってマヤモセとの結婚をタジクスに願い出た。それは皇帝の第一皇子でさえ例外ではなかった。マヤモセの父親は求婚者たちに課題を示し、その課題を達成した者に娘を嫁がせると宣言した。

タジクスが示した課題というのは、初代皇帝が神から授かった石板の行方を明らかにする、というものだった。その石板は、三千年にわたって皇宮の中心に安置されていたが、千六百年前に忽然と姿を消し、それ以来、その行方は杳として知れないのだった。

ある貴公子は、石板の行方についての手がかりを提供した者に対して百枚の金貨を与えると宣した高札を市中に掲げた。別の貴公子は金貨の枚数を百二十枚とした同様の高札を掲げた。手がかりの価格はまたたくうちに競り上がっていった。

史官の末席に連なるトミヌスという廷臣は、宮中でマヤモセを目にするごとに、彼女に対する思いを募らせていった。しかし、彼の官位はかろうじて昇殿を許される程度のものにすぎず、したがって石板の手がかりを得るための財力は無に等しかった。

ある日、マヤモセとトミヌスは宮中にある広大な書庫の一角で出会い、短い会話を交した。その日以来、マヤモセにとってトミヌスは特別な存在となった。彼女は足繁く書庫に通い、ひとときの逢瀬を楽しんだ。

マヤモセとトミヌスは、自分たちの結婚をタジクスに承諾させるためには石板の行方を自分たちで探索する以外に方法はないと考えた。彼らは石板の行方についての手がかりを得るために無数の古文書を渉猟した。そして彼らは、四千二百年前の神官が石板について書き留めた文書を発見した。その文書には、石板が持つさまざまな能力と、石板を操作するための呪文についての解説が記されていた。

石板が持つ能力の中には、自らの姿を人間の目から隠すというものも含まれていた。マヤモセとトミヌスは皇宮の中心にある部屋へ向かい、かつて石板が置かれていた台座の前に立った。そしてマヤモセは、人間の目から隠されている状態から石板を復帰させる呪文を唱えた。石板はその呪文に反応し、千六百年ぶりに人間の前にその姿を現した。トミヌスは石板を抱えてタジクスのもとを訪ね、マヤモセとの結婚を承諾してほしいと言上した。

タジクスは、石板が本物であるという証拠を示せとトミヌスに要求した。求婚者は石板を床に置き、呪文を唱えた。すると石板は変形し、威厳を備えた人物の姿となった。タジクスが名を問うと、自分はグヌギドムスであるとその人物は答えた。それは初代皇帝の名前だった。

しかしタジクスは、石板が初代皇帝に変形したことをそれが本物である証拠とみなすことはできないと反論し、トミヌスの求婚を拒絶した。そこで求婚者は、初代皇帝に変形した石板に向かって、これまでの経緯を説明した。

石板が自らを変形させることによって出現させた初代皇帝は、重々しい足取りで皇宮へ向かい、帝位をトミヌスに禅譲せよと当代の皇帝に命じた。初代皇帝から発せられる声が持つ威厳は、彼の末裔がその命令を拒むことを許さなかった。

即位の儀式を経て新しい王朝の初代皇帝となったトミヌスは、玉座の前へマヤモセを召し出し、彼女に皇后の位を授ける旨の詔勅を読み上げた。